通勤時30分小説
記憶の、すでに彼方にある、二日前に見た夢の事を思い出そうとしている。辿っている。辿るからには、手掛かりとなる伝手が有るべきなのだけれども、その夢の断片すら思い出すことが出来ない。 何処かの扉を開けた記憶があり、意外な人物が登場していた気が…
火、だとか、灯火だとかで、表現されるような、暗い夜の海の上にぽつねんと浮かんだ光を、見据えて、ボートを漕ぎ出すと、向こう側には、陸があるのか、果たして、海があるのか、思考回路はわからぬまま。
今日も一休み。
自分でも信じられない笑顔とは、なんなのだろうか。
体重計にのると、昨日よりも五百グラムほど、少なくなっていて、その分はどこに消えたのかと、訝しげにも思うのだけれども、そうした折に、これまで幾らか関係のあった女たちの顔が横切り、どうしたものかと、肉感的なイメージだけが今の自分の頭の中に流れ…
真理とは、ものの本に寄れば、いつどんな時も変わる事の無い、正しい物事の筋道、だという。筋道、道、というのだから、それには方向性があってしかるべきなのだろう。ということは、真理を求めるものすべては、どこかしらに向かって歩いている、もしくは移…
シャツを脱ぎ、肌着のままで横になっていると、気がつけばもうすでに朝となっていて、一日のうち、どのくらいこの部屋にいるのだろうかと考えると、怒りも何もなく、ただ、俯いている。
そりゃあないでしょう、ということの連続で、今日も明日も昨日も過ぎていく。
人は何故、高いところからの風景を望むのだろうか。確かに、高いところには、安全がある。空を飛ぶ生き物以外には危険を感じさせる動物が少ないし、津波もこない。高台は何故だか、人を安心させる。 屋上にいくのは何故だろうか。今の会社でも、前の会社で…
パソコンの電源が点いたまま、おそらく、一週間か二週間が経っている。いや、十二日くらいだろうか。果たして、その事はどうでも良い事として、最近の自分といえば、何をしていたのだろう。 記憶が覚束なくなるまで飲んでいたのが二回、誰と飲んでいたのか…
やはり、なんとなく納得がいかないというのは、心の底に沈んだ、何かしらが反映されているのだろうと思いながらも、ただ、自分の思い通りにいかない事に、反抗しているだけかも知れず、それでも、筋の通らないところを直感的に感じているのであり、それは、…
その、殺気立った手紙を受け取った瞬間に、彼はすべてを理解したつもりになり、何もかもが終わりを迎えたような気になってしまった。 頭の中で、鳴り響く音に対し、身体の表面では冷凍室に入ったような静けさで気温が流れている。 彼は、人と向き合う事につ…
肝臓に激しく負担を加えて、今日も過ごしております。短信として、このくらいで。 この数日、何があるやら。
階段を上ろうとして、踊り場に女が立っていることに、君は気がつく。 その女の事を君は知っている。君がいま、したから見上げる限りでは、女の顔は見えない。髪が長く、少しで髪質が硬く、黒く艶やかに輝いていて、頭頂部から少し後方に、いわゆるポニーテ…
モヒートの夏。ちょっとしょっぱい感じ。
財布を忘れて、右往左往。汗だけ流れて、アスファルトに嘆願。会社への道のりは遠く、今日も二日酔い。
それはダミーとして機能していた。会社での自分なのか、そのコミュニティとしての自分なのかわからない。 昔から、仮面をかぶって本心を明かさない男として、有名であった。それ以上にタグづけをされたくないだとか、単純なキャラに分類されたくないだとか…
内勤が続くと、夏の昼下がりの、アスファルトの温まり切った、熱風しかないビルの隙間の、すべての体力を奪う、うだるような気温の記憶が、薄れていってしまう。 雪国に住んでいなければ、雪かきの記憶が薄れていくように、夏の外気の記憶もなくなっていく…
だんだんと、汗が滲んできて、水色のシャツが、紺色に近い色に染まっていくなかで、じわりとつばを飲み込み、今日も電車を待っている。その最中で、風が少しそよぎ、昨日飲んだ、元気のない友人の横顔をそっと、思い出し、何かかけるべき声はないのか、だと…
卑屈とは、いじけて、必要以上に自分をいやしめること、またはその様のことをいうのだそうで、卑しめるとは、下品な、取るに足らないものとして見下げることをいうらしく、結局は上品か下品かでいえば、後者にあたり、あまり品のある事とは言えなさそうでは…
幸せの、頂点を見た後に、肉と酒をたらふく平らげてから、その、どちらが良かったのかと問われると、それでも、昼間に見た、あの光景が目から離れずにいる。 子を抱きながら、互いに気遣いをしあうその夫婦は、もちろん太陽の陽の光のせいもあって、輝いて…
このままでは、と思いつつ、体力をすり減らして行く。
電車の中で、縦長の画面を見つめつつ、ここではない誰かの連絡を待ち、隣には見知らぬ他人の肩がぶつかりながら、少しづつ会社へと近づいて行く。 今日はどこそこへ外出、明日はだれそれと打ち合わせ、近いが遠い、きれいがきたない、そこからどうして、い…
くたびれると、何もできなくなるよね。
朝から豪雨に流されてしまいそうになりながらも、今日の行方を考え、漂う。
余暇を過ごしている。夏の晴れた日の事であった。別荘のようなものを一人で借りて、山奥の避暑地まで来ている。今年も半分が過ぎた。再び秋になるまでには、山を降りようと思う。何故こんな山に来たのか。一つだけ気に入らない点があったからに他ならない。…
どこからなにが起こるか、わかりはしないのだけれども、それもまた楽しく思う頃、夜が明けて、白々しい空に切り替わる前に、余韻をひしと噛みしめる。
ノーリファラ。 参照元なし。ウェブサイトの解析において、どこから来たのかが不明である場合に使用をされる言葉。つまり、記事中のリンクをクリックして対象のサイトに辿りつくような場合ではなく、ブラウザへのURLの直接入力や、通信の際に記録の残らない…
夜、ひと気の少ないけれども、街灯の明かりがこうこうとした、都心からは少し地域の道を歩いていると、とつぜん、神社に出くわすことが多く、その度に彼は現状について呪い、かつ祈ったとその頃はいつもつぶやいていた。 そのつぶやきは、誰が聞いても、か…
この、目の前にいる女は嘘をついている。少なくとも、いま、目の前にいなくても、文章や音声でやり取りしている限りでも、直感はそう告げていた。男の直感ほど当てにならないものも無いのだけれども、いま、部屋にいて、ものを片付けながら、深夜の二時を四…