『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

だまって見過ごせ

    この、目の前にいる女は嘘をついている。少なくとも、いま、目の前にいなくても、文章や音声でやり取りしている限りでも、直感はそう告げていた。男の直感ほど当てにならないものも無いのだけれども、いま、部屋にいて、ものを片付けながら、深夜の二時を四十分も過ぎようとしている最中、ひとり、そう考える。時間が過ぎるのは、最も簡単に大切なものを消費できてしまうことであって、かつて、部屋の中に閉じ込められながら、他の社員は皆夏休みに入っていて、何故だか自分だけ実家に戻る飛行機をキャンセルしてまで、会社に残って働いているというのに、どうしてこのような目に合わねばならないのかを考え続けた日々に似ていた。男は、気分で動いてはならぬといいながらも、所詮人間ではあるので、その時々の、立場や背景によって感情を表現してしまう。その感情の受け取りては、怒りや、苛立ちや、陳腐な自尊心を、男から感じとり、何かしらの受け取りての判断基準たる記号に、あてはめてしまう。
   端的に言えば、男は男の認識して欲しい人物像のままに、受け止めて欲しい、都合の良い感情だけを持ち続けている。女は、嘘をついている。
   ただ、双方を、黙って見過ごすだけだ。