『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

休息

    休息に入るまでの期間が、あまりにもばたついていたので、しっかりと休むことができるのか多少の不安を抱えていた。
    休むにも体力のいるようになってきたわたしは、思い切って東京を離れることにした。わたしが東京を離れるのは、特段珍しいことでもない。
    珍しいことでもないのに、何故だか前日はそわそわするような心持ちがして、旅行カバンの中にどの本を入れるべきか、あれやこれやと本棚をかき回してみる。
    かき回している時が、実際に一番楽しい心持ちなのかも知れず、そう思った瞬間に、なんの本を持つべきかは決まっていた。
    何度も再読するような本は、それほど多くはなかった。カフカ中上健次金井美恵子ナボコフ、これはすごいことになったと、頼みすぎた中華料理の皿を眺めるようにそれらの本をカバンに詰め込む。わたしはこれらの本を全て読むつもりは毛頭なかった。
    毛頭なかった仕事の仕掛かり具合がふとよぎるも、気分は翌朝の機上の中にすでにあった。まだ残暑が続くので、涼しい地域がよかった。空港からは一日一便しかない地域だ。わたしは、乗り過ごしをしないことを祈り、眠りにつく。
    眠りの中で、何かしらの課題を、わたしは解決している。寝言に出しているかもしれないのだけれども、実際のところ、その寝言を聞く人間はだれも存在しなかった。
    だれも存在しない部屋が、一番キライと、別れ際に女はいった。実のところわたしも寂しい気がしないわけではなかった。本当に扉を開け、振り返っても誰もこたえるもののいない状況、それならば一人で締めたドアの鍵の音を聞いていたかった。無機質な鍵の閉まる音は、オートロックでは確認すらすることが出来ず、外の騒音が響く。