進まないカウント
毎朝、起きるとアプリを起動して、運動を始めるのだが、そうした習慣を二年近く続けている。
アプリは三十秒間単調な信号音で一秒ごとにカウントを刻む。無機質な音が朝の室内に響いて、消し忘れた目覚まし時計よりも虚しく聞こえる。虚しいのは、そうした習慣を二年続けているにも関わらず、一向に変わらない体質の方であり、このことは少なからず彼自身の自信を喪失させるには充分であった。
いつ、何ともなく始めた習慣ではあるものの、特に改善結果が出ないのは、何処かにやり方に問題があるのだと考え、せせこましくダメな点ばかりを挙げ連ねてしまうのだけれども、実際は何もしないよりはマシであろうという、最低限のエクスキューズが彼の中で働いており、どうにか六百日以上が過ぎているというわけであった。
アプリは、シンプルなものであり、筋肉毎の部位を鍛えるメニューと、継続日数の記録、日毎の運動時間などを記録することが出来るものであった。
ある日を境に、継続日数が記録されなくなってしまった。もちろん、ネジやバネで出来ているものではないため、通信しているオンラインのデータベースの問題か、アプリを起動している端末のメモリの容量の問題であろう。どちらにせよ、継続日数のデータなど、テキストに落とし込む類のデータのため、そこまで大きな容量にはならないはずだ。
彼がそう気がつくと、六百日という日数が、どうしようもなく薄っぺらいものだと気がついた。
それでも、翌朝になれば何となく続けてしまうのだろう。