『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

祈りを捧げる

    夜、ひと気の少ないけれども、街灯の明かりがこうこうとした、都心からは少し地域の道を歩いていると、とつぜん、神社に出くわすことが多く、その度に彼は現状について呪い、かつ祈ったとその頃はいつもつぶやいていた。
   そのつぶやきは、誰が聞いても、かすかに聞き取れる程度の音量で、口を尖らせながらぶつ、ぶつ、と繰り出されるその祈りはわはっきりと言って彼自身の評価を、魅力を下げているようにも感じとることができた。
   もちろん、働いていてそこまで悪い人物では無いのだけれども、そうした祈り捧げている風景は、周りでも話題になることがあり、そこから少し彼に対する関心の軸が移っていったのかも知れない。
   彼と話す時は、語尾に注意をして聞いていなければ、それが否定なのか、肯定なのか判断に苦しむことがあり、ずっと好意的な話題だと思って話していた事に、彼はまったく真逆の感想を持っていたのだと知ると、その際のやり切れなさと言えばなかった。
   何故、彼は祈りを続けるのか、現状そこまで行動しきれないような、うじうじとした人柄ではなく、逆に仕事では積極的に発言をし(この時には非常に語尾がはっきりとしている)、上役からの信頼も厚いように、見えていた。
   そんな彼が、悩んでいた事柄とは、何だったのだろうか。何を、そこまで、祈りを捧げていたのだろうか。
   わからないままではあるが、わかりたくない、とも思った。