主演女優へのインタビュー
そのインタビューを行うにあたって、用意したものといえば、携帯電話だけで、かつ、録音機能の使い方がよくわからなかったので、メモだけで臨むこととした。私は編集者でもジャーナリストでもライターでもないのだけれども、インタビューを行わなければならないために、今日、いまここに来ている。
始めてその主演女優にあったのは、地元のバーだったかもしれず、その時の記憶は非常に曖昧だったために、今の記憶も曖昧である。
そこのところに関していえば、長い付き合いである、と言うことは言えなくもないのだけれども、やはり言いにくいところも多々あった。
例えば、声量の問題は非常に大きい。私は、あのバーを非常に気に入っている。気に入っている一つの理由は、大きな音がしないと言うことである。マスターも控え目に話をしてくれる。
ただ、あの女に限って言えば、非常に声が大きいのである。私があの日のインタビューの時に、録音機材を一切持ち込まず、メモ帳のみ(それもボールペンと紙一枚)で過ごしたというのも、音割れをしてしまうことが、最も嫌いであると言うことに他ならなかった。
兎角、インタビューに挑まなければならない。右手には携帯電話しかなく、しかし、左手で記述を行うべきなのか、それに、重大なことにその時気がついたのであるが、私は、何を彼女に対して聞くべきなのか、質問項目を全くもって用意していない。
用意をしていなくても、そのインタビューは成功に終わった。
人と向き合う素材以上にやはり、面白いものなど存在しないからかもしれない。