ダミー
それはダミーとして機能していた。会社での自分なのか、そのコミュニティとしての自分なのかわからない。
昔から、仮面をかぶって本心を明かさない男として、有名であった。それ以上にタグづけをされたくないだとか、単純なキャラに分類されたくないだとか、そういう青臭い感情が先行をしていたのかも知れない。
仮面という言葉に抵抗があった。とはいえ、その実、何も考えていないだけでもあった。この、モラトリアムがどこまでも続くと、学生のころから考えてはいなかった。地下鉄の、ドアのふちに彩りされた、黄色のテープが下卑た色で蛍光灯にてらてらと反射して、輝いている。
倫理とはなんなのか、等価交換を考え始めた瞬間自分の所属するコミュニティは、崩壊をはじめるのかも知れなかった。予感だけがあった。予感だけがあって、実感を全く伴わなかった。
現実へのコミットメントと、予感からの回避の、どちらもやりたくなかった。無駄に費やす事だけが、真実味があったのかも知れない。