『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

余暇

    余暇を過ごしている。夏の晴れた日の事であった。別荘のようなものを一人で借りて、山奥の避暑地まで来ている。今年も半分が過ぎた。再び秋になるまでには、山を降りようと思う。何故こんな山に来たのか。一つだけ気に入らない点があったからに他ならない。そんな事を考えていると、すぅーっと、自分が自分の影を抜け出している事に気がつく。どこかに行こうと思う。目の前の、抜け殻の自分を見ると、抜け出す前と変わらず佇み、たいして内容が頭に入らない本のページをめくっている。人に対して憤りを感じていると、自分を抜け出す事が出来るのだろうか。澄ました顔をしている自分が、気に入らなかったのだろうか。抜け殻の自分は、ふわふわと空を飛ぶ事ができそうである。このまま少し、高度を上げて見る。気流にのると、V字編隊を組んで飛ぶ、雁の群れに出会う。まだ高く飛べる。そのうちに右に流れはじめる。東京へと向かう。自分が忌避したはずの人のもとに向かう。本当は、たぶん、忌避したくないのだろうと、本を読んだまま佇む自分が、ぼそっと囁くのが、聞こえた。