飛空挺
夕暮れのようである。通りは車も疎らな、二流の街といったところだろうか。薄紫の影が所々路地裏に侵食し、物寂しさを一層際立たせている。
暖簾だけは店構えの体として掲げられてはいるものの、店内はコンクリートの打ちっ放しの壁が露わになり、灰色にひび割れた模様のみが内装として違和感を放っている。
ゴザが敷かれていて、申し訳程度に椅子のつもりなのか、ビールの空き箱が並べられている。厨房は特に飾りなく丸見えで、女の店主が一人切り盛りしている。器量はよくなく、涙袋が異常に膨らみ、高い頬骨と合間って顔面に余計な凹凸を生み出している。態度も接客業とはかけ離れた思想で構成されている。
客がもう一人だけ酒を飲んでいる。特に自分とも話すことはない。大きな背の男だった。外で小柄な男が走り回っているのが、暖簾越しに伺うことができる。
やがて夜が更けて酒が回ると、器量の悪い女店主が寄り添っている。自分は何かを言うこともなく肩を抱き寄せる。
小柄な男は走り疲れたのか、ピーナツを持っている。
大柄な男は何かをはにかんで、こちらを垂れた目で眺めている。自分はもうどうでもよかった。
外から大きな音がすると飛空挺が空を覆い隠している。明らかに地球の技術ではなさそうな作りをしている。無造作に組み合わされた外装が、ジャンクの寄せ集めのように見えるし、何故あの形状で空を飛ぶことが出来るのかわからない。
飛空挺はノズルのようなものを伸ばすと、無作為に街を砲撃し始めた。自分はこの街の人間ではないが、あまり街を壊すのはよくないことだと考える。
小柄な男がおもむろに立ち上がると、持っていたピーナツを飛空挺向けて投げつける。
無意味なことのように思えたその瞬間、ピーナツは空中で大きな爆発をする。爆風と熱波をうけた飛空挺はバランスを崩して、いまにも墜落しそうである。
どのくらいの余波があるかはわからないが、あれが落ちればこちらとて、無事ではないのだろう。
そう思ってとなりの女をみると、気持ち良さそうな背伸びを、手足をいっぱいに伸ばして、目を瞑っていた。