『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

五叉路

    渋谷に行く前にトイレに寄ろうと、公衆便所に入ると、水が溢れている。床じゅう水浸しで、それ以上中に入る気がしないので、そのまま諦めて、電車に乗ることにする。

    電車の中は閑散としていて、休日の夕方とは決して思えない。今日も風が強い。電車にゆられていてもこれが夢であることにまだ気がつかない。

    渋谷に着くと改札を出た途端、バーのようなところに案内をされる。席に着くと女があらわれて、やたらとまとわりつき始める。そういう気分ではなかったので、またトイレに行こうと店の奥に入る。すると、ここでも水浸しだったので、急に興ざめして、先ほどの女に会計を頼む。女は会計が四千五百円だと言うが、実際に払った金額は七千五百円だった。聞いていた金額と違うし、そもそも何も飲んでいないと店の外に出て男の従業員に言うと、そう言うのは受け付けていない、と睨まれる。

   電車賃がなくなったので、歩いて帰ろうと思うと、五叉路にぶつかり、帰りの方向がどちらか全くわからなくなる。青い標識を見る限り、一番右手の道だろうと思い、そちらに向けて歩き始める。そのうちに段々と勾配がまして行き、気がつくとかなりの高さの場所にいるようであった。坂の下を見ると、屈強な男たちが何やらお祭り騒ぎのように笑いながらひしめき合っている。ああいう手合いは、嫌いじゃないなと思いながらも、見ていると、男たちの中でも顎の長い特徴的な顔の男がスカンクを掲げて現れた。いよいよ賑わいは盛り上がり、何が起きるかと思いきや、掲げたスカンクの尻から、ガスが勢いよく吹き出され始める。煙が舞い、男たちはさらに一層騒ぎ立てるが、近くで噴射された面々はそれどころではなく、のたうち回っている。

    茶番だな、と思いそれでも楽しそうだな、と考えながら反対を向き、また坂を登り始める。