ゆかすべり
波への乗り方を教えてやるよ、とその男は言うや否や、足を広げて床をついーとすべり始める。床の材質は灰色のざらざらとしたカーペットで、滑ろうと思えば確かに滑れなくは無いのだけれども、それにしても本当に波に乗っているように床を滑っている。
僕はすっかり感心してしまって、これならば海に出ても問題ないだろうと思って足を前後に広げてボードに乗った真似をしたところでぴくりとも動かない。どうやったらあの男のようにうまく滑ることができるのだろうか滑るでは無いのか乗る事が重要なのか、と、思いながらうつむいて足をの指先を見つめる。
思った以上に爪が伸びていると気がつき早速帰って足の指の爪を切らなくてはならないと思いそうした途端にすいーと床の上に乗る事が出来、玄関をおよおよと乗り越え(ドアは自分の手で開けて)、家までの道を波に乗るように帰れてしまったのだが今度は靴を忘れてしまい先に爪を切るか靴を取りに戻るかの二択を迫られることになってしまいまあ波にも乗れるようになったことだし今日はこのまま爪を切って寝てしまおうと思う。
布団に横になればなったで、今度はシーツと布団がやけにずれ始めおそらくこれは波に乗れていないことなのだとわかりながら、ドアを開けなければ外で目が覚めることはなかろうと、そのまま眠りに就こうと思うもののどうでもいいことが去来してしまい余計に眠れなくなる。
ああもういっそのこと靴を取りに帰ればよかったと思いながらも本当は靴になど興味がなかった事ははっきりと意識していてずっと右肩が痛いやはりもう少し寝なくては体が持たないと思い再度横になるもののまたシーツだけが上滑りを始めてしまいああもうどうでもいいか、と思ったらあっさりと眠りに就いてしまった。
翌日は起きたらもう、昼過ぎになっていた。