『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

要求はいつの日も

    あなたの弱点はあたしに気があることねーと言いながらもその目は何処か斜めを見ていて自分的にはそれが右斜め上なのか左斜め上なのか咄嗟に判断し兼ねているとやはり隙をついてそろそろ出ましょうかと先手を打たれる喫茶店での出来事は幾つかの一人で桜を眺めて歩く夜よりも遥かに寂しさを感じさせるしこれはこれで仕方が無いやはり勘定は自分が払うのだろうなと思うと案の定後でお金返すから払っといて、と、先に店を出る。

    しばらく話す言葉もないまま通りを歩いていたら人だかりの出来ている一画があってそこには犬を連れた婦人達が写真を取り合っていてあの女は真っ先に犬目掛けて歩いていきそういう犬猫への情熱を少しは人間に向けたらどうなのかと思いつつ婦人達の中の一人がよければ抱っこしませんかと犬それもブルドックを差し出し自分もどちらかといえば犬には目がない方なのであっさり承諾してしまい犬を抱えながらその大人しい頭を撫で始める。

    あの女は犬には興味を持つもののその犬を抱えている自分には一切興味を持たずずっと可愛いと普段は決して出さない少し高めの声を出しながら犬をあやし周囲から見れば自分たちは付き合っているように見えるのだろうかいやおそらく誰もそんなことは気にしないだろう何故なら自分も露骨に手をつないで歩いているような二人連れを見たところでその時の気分に合わせて卑屈になるかほっこりするかの二択だし第一自分達はそんな距離感にはなく通路の関係で肩ぐらいぶつかることはあれども永遠にその程度の、距離なのだ。