『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

安っぽい朝日

    子供がいますぐ欲しいわけではないけれども、ほら、やはり相手は東大?とか出てなくちゃダメでしょ、という、その「ダメ」の判定はお前だろ、と思いつつ、そんな事をいう相手など居ない事にも薄々気がつきつつ、今日も始まる。
    今日は必ず帰りに歯ブラシを買って帰らなければならず、今、目の前に(いると思っている)女の話を早く切り上げようと早坂は思うのだけれども、それも止めどなく溢れる結婚後の安子のライフプランについて、これはいつも通り別荘を買うくだりまで聞かねばならぬのだなと諦め、外宇宙に漂うライカ犬のごとく俯瞰して今の自分の状況を見つめ始める。
   安子と話すときにはいつも大きな窓のある部屋に案内されるような気がする。今日に至っては、ほどほどに仕事を終わらせて帰ろうと思った矢先、IDをかざすゲートを抜けた途端に、エントランスにある防災マップを見つめている安子に気がついてしまった。そこから早坂は早歩きで通り過ぎようとしたものの、その矢先に安子が振り返り、にっこりと笑うものだから無碍にも出来ず、正しくは相手にしなければ良いのだが、安子の器量はそこまで悪いものでもなく、一重まぶたではあるものの、帰ってそれが表情に朴訥な雰囲気を残す結果となり、すげ無い扱いもし難くしていて、だからやはり今日も抗えず、翻っていうと悪く当たらなければいつか良い目にもあえるだろうと思いつつ、ついて行ってしまったのだ。
   安子が世界について語り始めたのは、そんな夕方のことであった。
(続く)