『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

彼方

    その歩道橋の上にはいつも焼き鳥の串だとか、バームクーヘンの食べ残しなどが落ちていて、茶色に塗装された歩道にいつも違和感を感じさせるのであった。雨の降った日には路面が滑りやすくなっていて、革靴で歩き始めると転倒しないように注意しなければならないほどであった。この歩道橋を渡りきれなくては、向こう側の地下鉄の入り口にたどり着く事が出来ず、従ってあの女との約束をした駅にも永遠にたどり着く事が出来ないのであるが、それでも歩みを進め、やはり行くべきか、行かないべきか迷っているのであった。

    この歩道橋の上には、春には花が一輪咲いていることがよくあり、冬の雪で一面が覆い尽くされても、その花の咲く場所にだけはいつも雪はなかった。

    どう言うことかと問われれば、問う人ももちろんいないのだけれども、それに対し艶かしい感じが全くもってせず、彼はやはり歩みを進めず、歩道橋の上で来た道を戻ろうとする。

    夏になれば、蝉の声が近くに聞こえ、しかし裏返った蝉の死体などは一度も見たことがなく、よく出来たものだと、感心をする。