『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

色白坊主と壁穴

    電車に間に合いそうにないが、取り急ぎ走ることにしてみた。大体の事は、走れば間に合うように出来ている。彼は経験則的に、その事を知っていた。少なくともあと、三分以内に改札を抜けていなければならなかった。

    最初に間に合わないと感じた事は、いつのことだっただろうか。彼は中学まで無遅刻無欠席の至って真面目な生徒だったし、風邪を引いたところで、熱があったとしても(本当のところは休むべきなのではあるが)、必ず学校に行くと言い張る性分で、誰も休めとも言わないものだから、そのままある程度大人になってしまったわけだ。

    ただ、高校の頃に二度だけ遅刻、早退をしたことがある。

    遅刻に関しては、彼は寮住まいだったから、いつも同輩四、五人で連れ立って通学していたのだが、そういう中に一人は不良ぶったものがいるわけで、煙草を吸ったり、揉め事を起こしたりという可愛らしい性質の人間がいた。鼻筋の通って、色白の、典型的な整った顔立ちと言えば、そう言えなくもなく、年上の女と付き合っている、などという噂のある男だった。当時は何かに反省を示さなくてはならなかった時期らしく、坊主頭に丸めており、色白坊主、といったところだった。

    考えながら、大通りに出るまで、後少しであり、時計を見ると、残り七分である。

    ある程度の進学校に通っていた事もあるので、全員揉め事や飛び火を喰らうのは避けているので、当然誰も色白坊主に構うものはなく、ただ、爪弾きにするというわけでもなく、朝だけは行動を共にしていた。

    大通りから、歩道橋を渡るか、信号を渡るか、タイミングを見計らう。残り四分である。なんとか間に合う可能性がありそうだ。

    そんな色白坊主が、寝坊をして普段通りであれば気にもせず出発するのであるが、その日自分自身で何か引っかかる事があったのか、「待とう」と言い始めてしまったのだ。しめった雪が中途半端に降り、路面歩きにくく凍りついた朝の事であった。

    とうぜん、彼らは遅刻する事となり彼自身にとっても始めて遅刻する事となった。

    色白坊主のようなタイプもいれば、その逆も仲間内にはいるわけで、みんなには内緒にしているものの、テスト期間の勉強し過ぎのストレスか何かで、壁を殴って穴を開けたという、面長でおでこのひろい男がいて、その彼が怒り始めたのだ。

    歩道橋か、信号か、彼は信号の変わり目に期待をして、横断歩道を渡る事にした。残り三分に迫って来た。

(続く)