『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

色白坊主と壁穴(その2)

色白坊主と壁穴 - 『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

    とにかく、その日はとても寒かったのを、彼自主はっきりと覚えていて、それは丁度今日のような、空気の乾燥した、底冷えのする日なのだけれども、どこかすがすがしい感じが大気の中に通底している日だった。

    だが、結果として彼らは滅多にする事のない遅刻をしてしまった訳だ。とは言いながらも、些細な事、ほんの数分の事ではあったのだけれども、壁穴は異常に怒り出したのだ。

    色白坊主の方はというと、いつも慣れ切った事とでも言うのか、涼しい表情をしている。まるで、こちら側が勝手に干渉しただけで、自分に非がないかのように、口先をとんがらせている。

    実際のところ、関係はなかった。通学前の数分間、彼以外のメンバーを壁穴が率いて先に行けば良かっただけだし、ちょっとした、気の緩みで、足並みを揃えてしまったと言うだけなのだ。

    信号を渡る。地下鉄入口までもう少し。あと二分はあるだろうか。

     誰も幸せにならないというのに、最悪の結論に向けて、足並みを揃えてしまうという事があるのだという事を、その日彼らは学んだ。代償は対した事のないものだ。

    改札を抜ける。走らなくてもどうやら間に合いそうだ。あれから、十年以上経ったが、わかった事は多少の遅刻は問題ないと感じる神経が、生きている間に形成されることくらいだろう。

    ホームを降りると、すでに電車は発車した後だった。時間通りに、とはいかない。