『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

降りしきる雨の中で

    降りしきる雨の中で、三十八年分の冷たさを感じながら立ち尽くしている。立ち尽くしているというのも、まさしく妥当な表現と言えて、膝も腰もボロボロの状態だった。

    三十八年、言葉にすれば四文字程度の(アラビア数字で書けば三文字)短い言葉ではあるものの、それはやはり相当な期間だと言わざるを得ない。その間、ずっと立っていたのだ。

    風雨に晒されても、霜の降りる寒い夜でもそれは同様で、時に座って見たいとおもう事が無いわけではなかったが、やはりここまで来たのだから、立ち続けるしか無いのだと諦念と言うべきか、本当はそんな感情すら持ち合わせる必要などないにしろ、義理堅く、膝を震わせながら立ち続けていた。

   誰が止める訳でもなく、誰が推奨する訳でもないのだけれども、はじめに決めた事だから、途中幾つか土地の権利の関係で立退きを余儀無くされた事があったとしても、やはり立つ事を辞めはしなかった。

    毎日たち続けていると、それはそれで見える事が多くなり、せせこましく動いていたこれまでの風景は、途端に止まって見え、星はみな一様に尾を引いている。ツバメが巣を作る事があれば、足の裏からモグラが出て来た事もある。そんな中でも辞める事が出来ない理由とは何だったのか。酒を飲みに行きたい夜もあった。さて、私は誰で、何者なのか、自問する機会は存分にあれども、最後には「そういうもの」という結論に、いつもたどり着く。

    もうすぐ、三十八回目の三百六十五日と思った時に、目の前のアスファルトの裂け目から、花が咲くのが見えた。百合の花で、花弁の奥が膨らみはじめ、やがてそこから後任者が出てきた。

    こういうものなのだな、と思った瞬間に、膝から崩れ落ちて、それきり眠りについてしまった。