『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

花が咲く

    地面のあちこちに生えた、消火栓のような形をした鉄の塊の、そこかしこから色とりどりの花が咲く。橙色、紫、赤、青、種々の、雑多な色の花だ。所々の花弁の隙間から、緑の茎や葉が覗く。その緑は、根を下ろす鉄自体の赤錆た色と混ざり合ってモザイク画となって、Sの文字を描く。

    やがて背景が交代し、薄い青の染みが灰色の空全体に拡がっていき、空と地平線の境目と、花と鉄栓の境目を浸食し、私自身の存在も空気に溶けて行くような錯覚に陥らせる。

    そこから私は、怒りや、数多の違和感とごった混ぜになって、茫然自失となり、口を開けたまま、花を見つめ立ち尽くす。

    やがて、しばらく花なんて見ていないな、と私は思い返し。そろそろ行かなくてはならないと踵を返して、夜の中帰路につき始める。