外の雨の
夜中に、寝付けないでいると外から雨が窓にこつこつとあたる音が聞こえてくる。控えめな降りかたをしているので、蛇口をしめ忘れて流し台に落ちる雫のような音はせず、ビニール袋か何かがかさかさと微かな音を立てる程度の間隔で音が聞こえてくる。
昨晩も遅くまで仕事をし続けたため、帰ってからもまだ神経が昂り、少しの音にも過敏に反応してしまう。昼間の出来事や、先週あった人の事を思い出す。幾つかの顔がふっと浮かび上がる。階下から、洗面所の水の流れる音が聞こえてくる。
雑多な音の響きの明瞭さに比べ、目を閉じた状態で脳裡に浮かぶその顔は、曖昧過ぎるほどであった。はじめに感じていた印象では、目元がすこしけばけばしいものだったが、この前は少し薄らいでいた。どちらにせよ、はっきりは思い出せない。野良猫の鳴き声が聞こえる。赤子の、言葉にならないような喉の奥から絞り出した親を呼ぶ悲鳴のようにも聞こえてくる。断片的に聞こえてきた悲鳴は、そのうちに、間隔を伴い響きはじめる。よがるような声にも聞こえる。
長い間、うまく眠りに着くことができないために、聞こえなくても良い音が、鼓膜を通り過ぎて行くのかもしれない。そのうちにぼんやりとした顔もはっきりとした悲鳴もわからなくなり、ただ雨が降るのが強くなったような無音の響きが振動として伝わり、やがて止んだ。