『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

乾いた春

    風が強いのが、窓のにぶつかる風圧の音で察することが出来るのだが、早く家を出なくては間に合わないタイミングにもはやなりつつある。

    取り急ぎ、風呂に入り濡れたままの髪で、タバコを一本吸って気持ちを落ち着かせる。髪をドライヤーで乾かそうとすると、風の代わりに、たくさんの文章が文字列となって吐き出される。文字による黒い風の筋は束として吐き出されるが、濡れた髪の毛にあたると拡散して、バラバラの文字となる。

    文字の中には、漢字や、平仮名、アルファベットが確認出来たのだが、一部はHTML などの言語も見つけることが出来た。文字が髪にあたると、見事に水分を吸収し、膨らみながら床に落ちて行くのが窺える。

   床に落ちる瞬間、文字の各部首がばらばらになり、叩きつけられて跳ね上がり、その後ばらばらになって砕けてしまう。私は、ドライヤーを掲げながら、早く髪が乾けば良いなあとだけ考えていて、そのうちに、とうに家を出なければ、間に合わない時間であったことに気がつく。気がついた時には、すでに遅かったのだが、とにかく、早く髪が乾けば良いと、それだけを祈り続けた。