『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

あきらかな熱が

    話し始めると、鎖骨のあたりから肩にかけて熱を帯びて来るのが自分でも感じられてしまい、頭の奥底では自分が今、偉ぶろうとしていることがわかり始め、抑えめに、かつ自信が失われた形で相手に伝わらない注意をしながら話を続けている。やめればいいのに、という尊大な、仕事論の話ではある。仕事論の話を語る大人にはなりたくなかった。少なくとも聞き手の彼らは大人しく聞いているようではある。照明が幾分あざとい落ち着きを演出してはいるものの、その大衆居酒屋は、確実に下世話な欲望や横暴にあふれるべき場所で、となりの大部屋では二十五人ほどの客がひしめき合って、誕生日祝いの歌などを歌い始めている。その中で粛々と話を続けるわけにもいかず、自然、声は大きくなり、声に伴って内容も大きくなってしまう。
   帰り道ではきっと、後悔をするのだな、と思いながら、後悔の味のする安いビールを、ぐっと、飲み干す。
    店員が来て、新しい飲み物を供給して行く。さながら、餌を与えるように。