『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

パーティー会場にて

    パーティー会場に通されると、見知った顔が何人かいる事に気がつく。クリーム色のテーブルクロスの上に銀色の皿が並べられており、高い天井から差し込む太陽の光が淵に反射して眩しい。皿の上には、サンドイッチ、フライドポテト、唐揚げ、ローストビーフなど、こういった会場にありがちな食べ物が程よい間隔で敷き詰められている。

   なんのパーティーなのかはまだはっきりとわからなかったが、参加者は背広やドレスではなく、もう少し着崩した格好で参加している。空気は日曜日のそれに近く、開かれた窓から時折吹き込む風に乗って、春の香りが流れ込む。

    私は、この先の段取りを考える。断片的にではあるが、知らない人から話しかけられた場合の会話(昨日あった主なスポーツの結果や、世の中の主要なトピックス)をストックとして持っておく。

   やがて、黒いベストに蝶ネクタイのウェイターが、盆の上にオレンジジュースやビールの瓶を載せて現れる。ウェイターの髪型はなぜ一様にオールバックの事が多いのだろうか。オレンジジュースの色が余計に黄色がかって見える。

    やがて会場にいる各々がお酌をし始め、グラスの淵に瓶の口があたるコツコツとした音に導かれるように、雑談が沸き起こり始める。海のさざ波を車の窓を半分だけ開けて聞き始めたときのゆっくりとした、徐々に流れ込むような音の響きが、会場の高い天井に反響し始める。

    気がつくと、ごま塩頭で恰幅の良い初老の男性から話しかけられていて、「例の準備は大丈夫か?」と、問いかけられる。

   私は、取り敢えずなんの事か理解はつかなかったものの「昨日の主要なトピックスなら、おさえてありますから」と、上ずらないような卑屈に聞こえないような声のトーンに注意しながら答える。

   ああ、それなら良いが、と初老の男はそれっきり別の集団にお酌をされに行ったのだが、私が何をするべきだったのかは、とうとうわからないままになってしまった。