『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

乗り過ごし

    昨晩、電車を乗り過ごしたわけではないにも関わらず、どうも違う地に来てしまったようだ。終電前後の電車の中は、アルコールやその他出処のわからないすえた匂いで充満し、席もまばらに人が斜めに座っている。

 
    特に大酒をしたわけでもないし、体調不良や、くたくたに身体が疲れていると言うわけではないのだが、降りるべき筈の駅を通り過ぎ、また反対の、最後のチャンスの電車に乗ってしまい、気がつくと千葉方面にいるようだ。
 
    こちら方面に来ると、駅名の読めない地域か、その真逆の、誰が見ても読めるような駅名が、交互に訪れる。停車駅案内図をみて見ても、主要駅には英字の補足があるものの、そうではない駅にはなにも補足がない。酒々井、海神、宗吾参道市川真間、読めるような読めないような気分のする文字列が並んでいる。
 
    読めない地名に来ると、全く未開の地に来たような感覚を感じてしまい、自分のその安易さに恥じ入る。
 
    とは言え、どのようにして家に帰るべきか模索することが、何よりも最初ではあるのだけれども、今はまったくそのような気がしない。
 
    電車の中で眠る人たちを見る。どうしてここまで安心して眠ることが出来るのだろうか。目の前の女性の、緑色の鞄から、ピンク色のカバーがしてある携帯電話が、こぼれ落ちそうである。落ちた場合は拾うべきなのだろうか。拾って、かえって嫌な顔をされた事の方が多くなってはいないだろうか。
 
    このまま、行けるところまでいって、それからどのようにして帰るか、考えようと思った。