『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

冷たい地下室

    実家の食卓のある部屋の床に、地下室があります。私たち家族はそれを室(むろ)と読んでいました。中に入った事は無いのですが、ある季節になると、祖母がゴソゴソと漬物バケツを取り出し、風呂場で洗ってから、糠や、魚を一緒に入れて、その地下室に入れているところを見た事があります。
   私は魚の生臭いのが嫌いでしたので、そのぬか漬けは食べた事が無いのですが、地下室から取り出されたばかりの、冷んやりとした冷気がつきまとう感じを、ふとたまに思い出します。
   いつ頃から祖母はぬか漬けを作らなくなったのでしょうか。晩年の祖母は、病院からたまに帰ってくると、床を這う様にしてでなくては歩く事も出来ない状況でした。
   それでも、部屋の片付けや、私の生活の心構えについてなどは、これまでと変わらず気丈に振る舞い小言を述べ、それが一層切なくさせるのでした。
    何故、今になってあの地下室の事を思い出したのか、全くわからないのですがそれでも良いのではないかと思います。