『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

薄暗い空

    薄暗い空に、ぼんやりと光が見えて、タクシーの運転席の中年の男がひとり、子供とうまく会話が出来ない事を独白し、自分はただ眠りたい一心の頭でどうにか返事を返している。
   コンビニエンスストアの看板の放つ光が妙に青白く、視界の隅に尾を引いた形で残り、余計に運転手の言葉が頭のなかに入ってこない。
   始発まで、あと少しという所で気持ちが折れ、タクシーに乗れば寝過ごす事も無いだろうと考えたのは失敗だったのだろうか。四時だ、確かに運転手の男も眠気で客を危険な目に合わせるわけには行かないので、話をする事で意識を保とうとしているのだろう。それは確かに理解出来る事ではあるものの、自分の中では早く静かにして欲しいと思うばかりである。
   そうするうちに、男は酔っ払いを乗せた時の話をし始める。五十代の男の客の方が、泥酔しても車内で吐かない方法を知っているらしく、眠い上に嘔吐の話はこたえると思いながらも、大きく話の舵をとって、別の話を切り出す気力もないので、ますますお互い続けたくもない会話を継続せざるを得ない状況になっている。
   最寄りの駅までもう少しだ、と思った所で、空の色が綺麗な灰色である事に気がつく。朝焼けの、爽やかさなど少しもなく、完全な灰色に染められていて、寝起きの不快をかき集めて絵の具に溶いたような具合の色調であった。
   あと数時間後、自分はまた出社し始め、デスクに大人しくすわり、電話をかけ、口角をあげ続けるのだろう。

   この灰色が好きだ、と自分でも意外に感じてしまった。