『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

花と犬

    小型犬、といってもチワワやプードルのような可愛らしいものではなく、もう少し獰猛な、四肢の長い犬が目の前にいる。自分は夢の中で、四歳くらいの少女になって、麦わら帽子を被っている。正確には、自分自身がその犬と相対しているわけではなく、どうも俯瞰で眺めているような感覚にとらわれる。とはいえ、犬は嫌いなほうでは無いため、手を差し出して、可愛がろうと試みる。犬は、その手を甘噛みする。甘噛みしても、その歯は鋭く、小さくてもきちんと機能を果たしているので、指に刺さり血が流れる。血が流れても、さほど肉の深いところまで刺さるわけでは無いため、激痛は走らない。多少のことは仕方が無いかと、小さな指を引っ込め、裾などで拭う。裾で拭うあたり、自分でも四歳児の行動だと思いなおし、手を洗おうと洗面所に向かって小走りになる。犬は追ってこない。辺りは快晴で、背の高い雑草が青々しく太陽の光を所々遮っている。
   洗面所に入ると、どれだけ手を洗っても血が落ちる気配が無い。このままでは、親に叱られると思ったのだが、親の顔が中々思い出すことが出来ない。この体のままでは、記憶も取り違えられているのかと、少し焦る。
   洗面所から出ると、30代の男の、元の体に戻っていて安心する。
   洗面所の横には、山道が日陰の下に緩やかにカーブを描いていて、急に日差しの元に戻るのがしんどい感じがしたのでそちらに向けて歩き出す。
    そのうち、真っ赤なキノコと、薄紫がかった傘から、紐のような細い触手のようなものが無数に生えたキノコが大量に群生している場所に差し掛かった。確かに湿気が多く、初夏なのに冷気すら感じるような日陰であった。キノコは丘の斜面のくぼみになったところに集中して生えており、幾つかあぶれたものだけが、山道にはみ出している。
   そのはみ出したキノコに対して、喰える喰えないといった、安直な議論をしている2人組が、反対側から歩いてくる。学生の頃の先輩と友人であった。
   どうも議論に着地が無いようなので、自分はiPhoneを取り出して、アプリで種類を調査しようとする。そうすると、友人達は、「そんなこと疲れるだけだから」といい、真っ直ぐ山道を歩くと休憩小屋があるので、そこで休むといいと、進める。
   確かに疲れていて、眠くもあったので、その勧めに従うことにして、小屋にたどり着いた。
    すると、先ほどまで自分だった少女が幼いまま百五十センチの大きさになって、そこに寝ており、先に寝ている事に不服は感じたものの、やはり疲れているので、自分も横になる事にした。
    すると寝ているうちに首を締められる息苦しさを感じ、目をひらくと、先ほどの少女が目を充血させながら首を締めていた。

    自分は苦しくなって、目を覚ました。