『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

単体深海魚

    単体で生活をする事で知られるその魚は、これまでどのようにして広大な海の中で他の同種に出会うのかと言う事は、長い間研究の対象とされて来た。
    その魚の名前は、ギオリオタチウオと言い、なぜそのような名前が付けられたのか、と言う事からして不明であり、通常は深海の、それもかなり深い海域に生息をしており、群れで発見をされる事もまずなく、半径二十キロ以内に、同種がいた事も報告としては挙げられた事が無かった。
   タチウオ、と言うだけあり、かなり平たく、体色は銀色のように見えるが、実は灰色がかった白で、深海でライトに照らされると途端に光って見えるため、タチウオのように見えるが、実際はタチウオの仲間では無いらしい。

    特に孤独を好む事で知られ、深海でも全く他の生き物が存在しない場所で発見され、何を食べてその生命を維持しているのか、全くもって不明な魚である。

   その特異な生態については、不明の一言で片付けられる類の生物であるのだが、深海調査を行う度に、接触したという報告が見られるため、どのような食生活を送り、どのように繁殖しているのか、明らかになるのもそう遠くない事だろうと思われていた。

    一点不可解な事があるとすれば、ギオリオタチウオが現れる瞬間、一時的に全く他の生物の存在が確認されなくなると言う事だ。

    それ故、深海の探求者達は、ギオリオタチウオの目と目がピッタリと合う破目になってしまうと言う。見つめてくれと言わんばかりに。

    私は、研究者ではないものの、この魚に対して持つ興味は、尋常ではない。魚は嫌いだが。深海の暗闇の中で、半径二十キロずっと孤独に泳ぐ魚、いつかみてみたいものだ。