『季刊 枯片吟』公式ブログ ~先天的失言者~

文学フリマに出展している『季刊 枯片吟』のブログになります。

ハンバーガー

    せっかく来たのだからここで帰るのはもったいないよ、と、小学からの友人が口火を切ると、各々が一斉に役を演じはじめ、あたりはさながら胡散臭い小劇場の様になり変わる。

   幾人かで何かの役を演じてはいるのだが、その役が何なのかは、はっきりとしない。ただ、演じているという意識のみが、身体の隅々に染み渡り、特に拍手や喝采があるわけでもないのだが、満ち足りた感覚に浸る。

   そのうちに、同じく同級生の女が当時のような掛け声で、ちょっと、早く行くよ、と、語尾を強めてふざける男たちを窘めはじめ、我々は少し不満げにそれぞれの役を離れ、持ち場に戻って行く。

    旧式の家屋のような作りのその家は、柱が大げさに彼方此方に設けられていて、その事が半身を隠して見たり、寄っかかって見たりと、色々な好奇心を煽り立てる。

    そのうちに、ハンバーガーを誰かが買って来て、みんなでがさごそと包みを開けて、食べ始める。私が食べていたハンバーガーだけ、新商品だったようで、肉が油で揚げられていて、これまでに食べた事のない食感であった。揚げ方は、メンチカツの要領ではなく、和風の、天麩羅に近い揚げられ方をしていた。中身はひき肉である。肉汁が適度に閉じ込められていて、かつ、安いものの類の油がそのまま流れ出したようなものではなく、本当の肉の旨味が込められている。

   そうこうしていると、友人が、ため息をつきながら、「このまま帰ることなんてないのにな」、とつぶやき、それもそうだと思いつつ、私は食べさしのハンバーガーの三分の一を、思い切って口の中に放り込んだ。